(78) ピラトの裁判①

「イエスは死罪」という判決を下した議会ですが、問題がありました。ローマ帝国に支配されているユダヤ人には死刑を執行する権限が与えられていなかったのです。

☆「あなたはユダヤ人の王なのか。」(ヨハネ 18:33)

罪人を実際に死刑にするには、ローマ総督の許可が必要でした。ユダヤ人指導者たちは、イエスを縛ったまま、カヤパ邸から総督ピラトの官邸まで引っ立てて行きました。ニワトリも鳴き始め、夜が明けてきています。

朝っぱらからの騒ぎに、ピラトが出てきました。何だ何だいったい何の告発だ!? 指導者たちは答えます。「死刑に値するほどの悪人ですよ!」。この男はわが民を惑わし、ローマ皇帝カエサルに税金を納めることを禁じ、自分はユダヤの王キリストだと言っているのです!反逆者です!! …総督としては、ローマ皇帝に逆らう者を放置しておくわけにはいきません。暴動でも起こされたら自分の首が飛びます。ピラトはイエスを官邸に呼び入れてたずねました。「あなたはユダヤ人の王なのか?」。イエスは答えます。「そのとおりです。しかしわたしの国はこの世のものではありません。わたしは、真理について証しするために生まれ、この世に来たのです。」

国…ということは、やはり自分は王だと言ってるのか? …しかし、それきりイエスはユダヤ人たちがガンガン言い募る訴えに対しては一言も答えられません。あんなに不利な証言をされているのに、何も弁明しないとは… ピラトは驚きました。彼にはイエスがローマ帝国に逆らう危険人物とは思えませんでした。彼は外に出て行くとユダヤ人指導者たちに言いました。「私はあの人に何の罪も見出せない。」

☆ヘロデはイエスを見ると、非常に喜んだ。(ルカ 23:8)

Jesus at Herod's Court(ヘロデ邸のイエス)
[1]「Jesus at Herod’s Court(1308-1311)」Duccio di Buoninsegna[2]

ピラトの返事を聞いたユダヤ人指導者たちは、もちろん“ああそうですか”と引き下がったりはしません。あの男は、ガリラヤから始めて、ユダヤ全土を巡り歩き、このエルサレムに至るまで、民衆をあおり立てて来ているんですぞ!

ガリラヤ? この男はガリラヤ人なのか? ピラトは思いつきました。ガリラヤの領主ヘロデ・アンテパスがエルサレムに来ているじゃないか! もうあいつにまかせよう…ピラトはイエスをヘロデのところに送ることにしました。

ヘロデはイエスを見ると大喜び。ずっと前から会いたかったのです。だってイエスの行なう奇跡を見たかったから! ヘロデは何やかやとイエスに質問しました。ところがイエスはヘロデには何もお答えになりません。短気なヘロデは今度はそれにブチ切れました。ユダヤ人指導者たちもそこにいて、悪人だ!反逆者だ!と大騒ぎしています。

ヘロデはその兵卒どもと一緒になって、
イエスを侮辱したり嘲弄したりしたあげく、
はなやかな着物を着せてピラトへ送りかえした。

(口語訳聖書 ルカ 23:11)

ピラトだけでなくヘロデも、イエスに死罪どころか罪らしい罪も見つけることができませんでした。腹立ち紛れにいたぶっても、相手は許しを乞うこともせず、毅然としているだけです。イザヤ書の預言は着々と実現しつつありました。罪が無いのに犯罪者扱いされ、みじめな仕打ちを受けながら、実はイエスがすべてを司っておられたのです。

参考

[1] 「聖画を用いる」

[2] 「ヘロデによるイエスの尋問」を描いた画家たち
「Jesus och Herodes(1509)」Albrecht Dürer
「Christ Before Herod (1762)」John Valentine Haidt 他

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